2019年6月14日 最近100年間で草地が90%以上消失 地質学的時間スケールからみても大きな出来事

(国研)森林研究・整備機構森林総合研究所は、京都大学、北海道立総合研究機構森林研究本部、農研機構西日本農業研究センター、龍谷大学、京都府立大学、北海道大学、オーストラリア国立大学と共同で、過去10万年間にわたる日本の草地の歴史を植物の遺伝子解析により推測した。

温暖多雨なわが国は、国土の約7割が森林に覆われており、この面積は最近100年間で大きく変化していない。一方、草地は90%以上が消失し、草地に依存した多くの生物が減少しており、国内各地に残存する草地も今まさに減少を続けている。

こうした中、研究グループは、「森林の国における草地や草地に依存した生物の減少がどのような意味を持つのか」のテーマの下、全国各地に残された草地でセンブリ、カワラナデシコ、オミナエシ、ワレモコウの葉を収集し、次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析を実施した。この4種は、数十年前までどこでも身近に見られた、日本の秋を彩る草地性植物だったが、今回の調査により、これらの種が過去10万年間にわたって個体数を数百年前の0.5~2.0倍の範囲で維持してきたことが明らかになった。この結果は、最近100年間に起きた草地と草地性生物の国内での激減が、千年~万年を単位とする地質学的なスケールで見て大きな出来事であることを示すものである。

林業や野焼きなどの人による自然の攪乱は、温暖多雨な日本で草地を維持するのに貢献してきたが、こうした人間活動によって維持されてきた草地は、最終氷期以降も草地性生物を維持してきたと考えられる。今回の研究結果は、人類が環境の改変や維持に果たしてきた役割、特に林業や農業が草地を維持してきた役割の歴史的な重要性を示すものとして注目されている。

 

「草地とその生物多様性の減少」を地質学的な時間スケールからみた意味

100年前まで、草地は堆肥や牛馬の飼料、屋根の材料を生産する重要な場所として、日本の国土の10%以上を占めていた。しかし、近代化によって草地はこうした役割を失い、人工林に転換されるか、あるいは管理が放棄されて天然林に遷移し、現在ではその面積は国土の1%にまで減少している。その結果、草地に依存する多くの生物が絶滅の危機に瀕している。

こうした草地とその生物多様性の減少については、「千年~万年を単位とする地質学的な時間スケールでは、どのような意味を持つか」といった疑問があった。

日本の草地の歴史に関しては、国土の17%を覆う「黒色土」が注目されてきた。黒色土は草木植生が長期間繁茂した環境下で発達するとされることから、黒色土が日本国内に広く分布するという事実は、草地が広域かつ活継続的に維持されてきたことを示すと考えられる。

一方、植生の変遷を調べる際に用いられる花粉分析からは、日本で継続的に草地が維持されたという確固たる証拠は見つかっておらず、両者の間には大きな隔たりがあった。また、黒色土は草地に確実に由来するという統一的な結論は得られておらず、花粉分析は花粉が分解されにくい湿潤環境の堆積物に限定される。このため、黒色土の分布と花粉分析のいずれも乾燥した草地の歴史の再構築には限界があった。

 

わが国の草地は過去10万年にわたって維持されてきた

このため、今回の研究では、日本人になじみが深く、かつてはごく一般的に分布していた「センブリ」、「カワラナデシコ」、「オミナエシ」、「ワレモコウ」といった草地性植物4種の遺伝子解析により、草地の歴史が調べられた。

具体的な方法としては、まず、これらの種の葉を、全国に残存する25ヵ所の草地から収集した。次に、葉から抽出した遺伝子を次世代シーケンサーで分析して大量の塩基配列を得て、その塩基配列の情報を集団遺伝学的手法で解析することにより、それぞれの草地における各種の個体数(集団サイズ)の過去の変遷を推測した。

その結果、種によって違いがあるものの、集団サイズの変遷を数十万年から数百年前まで遡って推測することができた。対象とした4種の集団サイズは、過去10万年間にわたって数百年前の0.5~2.0倍の範囲で維持されてきたことが明らかになった。

この結果は、国内の草地が地質学的な時間スケールで安定的に維持されてきたことを示す。このため、最近100年間に起きた草地の激減は、地質学的にみて大きな出来事であると考えられる。

 

林業や農業が草地を維持してきた役割の歴史的な重要性を示す

林業や野焼きなどの人による自然の攪乱は、温暖多雨な日本で草地を維持するのに貢献してきた。そのため、黒色土が発達するほど長期的に草地が維持されるには、1万年以上前から継続的に人の手が自然に加えられる必要があったと指摘されてきた。

今回の研究結果は、この仮説を支持するものであり、100年前まで人為的に維持されてきた草地は、最終氷期に広がっていた疎林や草地で繁栄し、その後の温暖化・湿潤化によって生息場所が失われたために減少するはずだった草地性生物の逃避地になったと考えらえる。

近年、人類によって地球環境は大きく劣化しており、地球は新たな地質時代 ―人新世― に入ったと指摘されている。一方で、今回の研究で明らかになった日本の草地の長い歴史は、人類が地球環境の改変や維持に果たしてきた役割、特に林業や農業が草地や草地性生物を維持してきた役割の歴史的な重要性を示すものだとして注目されている。


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