このほど、フランスのパリで第84回国際獣疫事務局総会が開催されたが、農研機構動物衛生研究部門が製造する牛疫ワクチンの製造用株であるLA赤穂株が世界標準株として承認された。国際機関に認定された動物衛生研究部門が製造、備蓄するこのワクチンについては、世界的な牛疫の清浄性維持への貢献が大きく期待されている。

 

今回の承認までの経緯

牛疫は、致死率、感染力ともに高く、かつて世界で最も恐れられた家畜の伝染病だったが、国際連合食糧農業機関(FAO)、国際獣疫事務局(OIE)による撲滅キャンペーンが進められた結果、2011年に世界的な撲滅が宣言されている。

また、農研機構動物衛生研究部門は、昨年5月にFAOとOIEから牛疫ウイルス所持施設(東京都小平市)、牛疫ワクチン製造・保管施設(茨城県つくば市)の認定を受けている。さらに、今年5月には、OIEから牛疫のレファレンスラボラトリーとして認定されている。これらの認定が、動物衛生研究部門が行う技術協力や、ワクチン等の製造業務が国際的に評価された結果と言える。

わが国では、1920年以降、牛疫の野外発生例の報告はない。しかし、戦前は大陸からの侵入の危険に曝されていた。戦後、FAOとOIEを中心にアジア、アフリカ各地で撲滅計画が推進され、2011年5月に牛疫は天然痘に次いで世界で撲滅された疾病となり、FAOとOIEによる撲滅宣言がなされるに至った。

牛疫ワクチンは、この疾病の撲滅に大きく貢献してきたが、今回、ワクチン製造用株の一つであり、日本で樹立・実用化された「LA赤穂株」について、家畜衛生分野における国際基準であるOIEマニュアルに収録するよう提案され、OIE専門家と加盟国による検討を経て、今年5月、フランス・パリで開催された第84回OIE総会その提案が承認された。

 

現在世界で製造が行われている 唯一の牛疫ワクチンの製造用株

「LA赤穂株(家兎及び鶏胚馴化牛疫ウイルス赤穂株)」は、1938年に牛疫研究の第一人者であった中村稕治博士により樹立された中村Ⅲ株をもとに、動物衛生研究部門の前身である家畜衛生試験場の赤穂支所で開発された高度弱毒化株。現在世界で製造が行われている唯一の牛疫ワクチンの製造用株である。ホルスタイン種などの欧州系品種に比べて牛疫に対する感受性が高いことで知られる黒毛和種や韓国黄牛などのアジア系品種に対しても安全性が高く、これらの希少種を牛疫の災禍から守る上で必須の動物用医薬品として、国の承認に基づくワクチン製造に長年利用されてきた。しかし、LA赤穂株には、これまで国際的な位置付けが与えられていなかった。

そこで動物衛生研究部門では、2015年5月のFAO、OIEによる牛疫ワクチン製造・保管施設認定を機に、LA赤穂株の全ゲノム配列を決定したほか、近縁株との類似性を明らかにした。また、不測の事態に備えて、アジア、あるいはその他の地域へもワクチンを提供することが可能な備蓄施設としての機能を維持する上で重要となる備蓄ワクチンの長期保存試験を実施し、その有効性を確認した。これらのデータを基に、OIEマニュアルにワクチン製造用株としてLA赤穂株を収録するよう提案した結果、今回、OIE総会で提案が承認され、世界標準株としての位置付けが明確化された。

 

LA赤穂株に集まる期待

牛疫の撲滅が宣言された現在、FAOやOIEでは、「牛疫撲滅後の国際的な対応計画」の策定を進めている。牛疫ワクチンの備蓄は再発などの不測の事態への対応に際して早期に清浄性を回復するために必要となるものであり、安全性の高いLA赤穂株に対する期待は少なくない。

LA赤穂株は、OIEマニュアルへの収録によって世界標準株としての位置付けを得た農研機構の牛疫ワクチンとして、今後、牛疫の清浄性の維持に貢献していくことが期待されている。