2021年12月16日 心不全患者の介護率「2倍以上」 新潟大Gが国内初の調査分析、リスク判明

高齢化に伴い爆発的に増加を続ける心不全。心臓機能低下だけでなく、多併存疾患・多剤併用(多くの薬を服用する)・フレイル(虚弱)といった複雑な問題が内在とする老年循環器疾患としての一面も持つ。新潟大学研究グループによると、この心不全患者の介護発生率が、一般人口に比べて極めて高く、健常者の2倍以上にのぼるという。心不全患者の介護発生率は今回、わが国で初めて示された。患者に内在する諸問題が介護発生率増加につながっていることをうかがわせるもので、わが国が抱える介護という社会的・経済的な負担を増長するリスクとしての心不全の新たな側面が浮き彫りとなった。

 

「心不全パンデミック」到来

高齢化が進行するわが国では、65歳以上の人口は全体の28%を超え、老化に関連した疾患が増加している。循環器分野では心不全が老化疾患に該当する。新潟大学院医歯学総合研究科循環器内科学分野ではこれまで、〝心不全パンデミック〟と呼ぶべき心不全患者の増加をいち早く予測。同分野によると、「今まさに予測通りの展開を迎えている」という。

心不全は、5年死亡率が50%以上の極めて予後不良な疾患で、わが国では癌に次ぐ死因。2020年秋に「循環器病対策推進基本計画」が、「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」に基づき閣議決定された。循環器病対策の基本となるもの。関連文書に〝循環器病は、わが国での主要な死亡原因であり、介護が必要となる主な原因の一つである〟と明記されており、死亡ばかりではなく介護の発生を抑えることが重要な課題となっている。

介護保険は2000年に制定された社会保障制度の一つで、介護を必要とする高齢者を社会全体で支え合う仕組みとして、20年以上にわたり広く国民に利用されている。その一方で、利用者数や給付額は20年で約2.5倍となり、社会的・経済的負担の増大が懸念されている。

さらに介護保険の利用は心不全患者の予後を規定するリスク因子で、生活機能障害を表す重要な指標といえる。しかしこれまで、どのような心不全患者がどのような頻度で介護保険を必要とするのか不明なままだったことから、研究グループでは調査を実施した。

 

心不全患者の介護発生率は1割超

調査を行ったのは、大学院医歯学総合研究科循環器内科学分野の藤本伸也専任助教、猪又孝元教授ら。調査は、期間中に心エコーで心臓の収縮機能を評価するための代表的な指標である左室稼出率(EF)で、〝縮小不全〟と定義される50%以下と記録された心不全患者3550例のうち、65歳以上でかつ介護保険未申請の1852例を解析対象とした。平均年齢は75.8歳、男性が71.2%、EFの中央値は43.0(35.7‐47.0)%で、基礎心疾患は虚血性心疾患が約半数だった。

心不全患者では、新規介護保険申請が332人にみられ、介護発生率は100人あたり10.7人。これは地域在住高齢者に比べ有意に高値となった。

研究グループでは、心不全患者での介護発生のリスク因子に関しても確認した。多変量解析では、心房細動、脳卒中の既往、骨粗鬆症、認知症などの併存疾患や、睡眠薬、利尿薬などの薬剤の使用、介護発生のリスク因子として抽出された。

 

網羅的・全人的医療提供を構築

新潟大学循環器内科学分野が目指しているのは〝予防医学を基盤とした健全な医療〟。疾患に陥らないための予防対策(一次予防:生活習慣病などの治療)、罹患したのち死亡や再入院を減らすための予防対策(二次予防:手術や薬物治療)とともに、介護予防は重要で、特に心臓病患者に大きな問題になり得ることが判明した。今回の調査分析結果を踏まえて、研究グループでは、「リスクを正確に把握し、通常治療からその後のリハビリテーションに至るまで、網羅的かつ全人的な医療を提供できる体制を整え、健康寿命の延伸につなげたい」としている。


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