2021年3月31日 大気中のCO2増、水田の気温抑制効果に影響 新開発の数値モデルで明らかに 農研機構・北大

水田には、水田とその周辺地域の日中の気温上昇を緩和する効果があるが、農研機構と北海道大学は、新たに開発した数値モデルで水稲の気候応答などを反映させることでこの水田の持つ気候緩和効果の大きさを見積もることに成功した。このモデルにより、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度が現在の400ppmの2倍に増加した条件では、水稲の葉からの蒸散が抑えられ、関東付近では夏季の晴天日における水田の日中の気温は、平均で0.44度上昇し、市街地も平均で0.07度、水田近傍では最大0.3度上昇することがわかった。さらに、今世紀末までに想定される大気CO2濃度の上昇は、温室効果による気温上昇をもたらすだけではなく、水田の気象緩和効果を弱める可能性があることが示された。

 

【水田が気温上昇を緩和】

農業にとって気象は資源ともいわれており、農作物の生育にとって適切な気象環境は不可欠なものである。近年では、地球温暖化などの気候の変化によって人間の居住空間だけでなく、農作物が享受する気象資源が変化することへの懸念が高まっており、一例として、夏期の異常な高温は水稲の生育に不利益をもたらすことが分かっている。

日本をはじめ、アジア各国の典型的な景観の一部として親しまれる水田には、水田や周辺地域の気温上昇を緩和させる、「水田の気象緩和効果」があることが知られている。しかし、この効果が将来にわたり持続するのかについては明らかになっていない。

大気中のCO2濃度が上昇すると、植物体の気孔の開き具合が小さくなるために蒸散が減り、その分、植物体の温度が上昇して植物が大気を温めるエネルギーが増加する。その結果、水田やその周辺の気温が上昇することが考えられるが、どの程度気温が上昇するのかを定量的に示す手段はなかった。

こうした中、農研機構と北海道大学低温科学研究所は、「大気‐水田生態系結合モデル」を開発し、将来のCO2環境下で生じるであろう水稲の気孔応答を介した気温上昇の程度を見積もるシミュレーションを行った。

 

【「水田生態系モデル」に「局地循環モデル」を結合】

農研機構では、これまでに水稲の気孔の開き具合や蒸散を考慮して水稲の生育や水利用を見積もるための「水田生態系モデル」を開発している。

研究では、この水田生態系モデルに、北海道大学低温科学研究所が開発した局地循環モデルを結合させ、水田、畑地、市街地、森林など様々な土地利用が混在する数百キロメートル四方の地上面から、上空約1kmの大気層までの気象環境をシミュレートすることで、水田の環境応答が周辺の気象環境に与える影響を見積もることができるようになった。

また、開発したモデルにより、現在の大気中のCO2濃度条件(400ppm)と、およそ半世紀後に起こりうるCO2濃度(800ppm)とで、それぞれの気温のシミュレーションを実施。対象範囲は約300km四方で、3km四方の範囲ごとに計算を行い、さらに算定された各地点の平均気温と土地利用分布から、それぞれの土地利用における気温を推定した。また、水田面積が減少した場合についても同様のシミュレーションを行い、土地利用の変化とCO2濃度の変化が気温に与える影響を比較した。

その結果、現在のCO2濃度条件で、水田では、市街地と比べて日中の最高気温が2度ほど低くなると算定された。

また、大気CO2濃度を倍増させた条件では、水稲の気孔開度が小さくなり、水田地帯を中心として広域的に日中の最高気温が上昇すると算定された。

さらに、水田と市街地の両方が含まれる地点(3km四方)を抜き出して比較した結果、大気CO2濃度が倍増し、水稲の気孔開度が小さくなると水田の日中の最高温度が0.2~0.7度ほど(平均で0.44度)上昇し、市街地では日中の最高気温が最大で0.3度ほど(すべての周辺地域の平均で0.07度)上昇すると算定された。

このほか、大気CO2濃度の倍増時に水稲の気孔開度が小さくなることによる地域全体の昇温は、現在の条件で水田面積がおよそ1割減少したときの昇温量とほぼ同等となる。

 

【将来の気候下における水田の気象緩和機能の影響をより詳細に調査】

今回の研究成果により、水田では、市街地と比べて日中の気温が低く保たれているものの、大気中のCO2濃度が上昇すると、「水田の気象緩和効果」が低下し、水田地帯を中心とした広域の気温が上昇することが示された。このことから、将来、大気中のCO2濃度が上昇すると、温室効果による高温化と相まって、夏季の高温によってお米の品質低下や、不稔などの障害リスクが増加する可能性が示唆される。高CO2条件下でも水田上の気温は市街地の気温よりも低く保たれるため、もしも水田の作付面積が減少すると、地域全体の平均的な気温は上昇すると考えられる。

また、今回は水稲の気孔応答のみが考慮されたが、CO2濃度増加により森林など他の植生も変化すると考えられる。この点を踏まえ、研究グループは今後、地球全体での温暖化や他の植生の応答なども考慮し、将来の気候下における水田の気象緩和機能の影響をより詳細に調べていくとしている。


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